行く(娘を途中――C町――まで送りがてら、其処で豚の仲買人に豚を売つてその代金を娘に持たせてやるため)。
   (順路)
 村(A)から乗合馬車の通る峠(B)迄は徒歩。
 そこから軽便鉄道の起点になつてゐる町(C)迄は馬車、(C)町から東北本線の(D)駅迄は軽便、(D)駅から上野行きの列車に乗る。
 乗り合ひ馬車の通る峠B迄は勿論徒歩。父とスミと弟と小母さん。それから、つながれて追ひ立てられて行く豚達。四人Bの峠の立場茶屋に着く。今日はまだ馬車が来てゐない。
 待つてゐる間に、スミは、自分の為に売られて行く豚達を憐れがつて「可哀さうに、売らぬ訳には行かねえか、お父う? そんな金、おら、なくともいいだけど……」
「まあいい、しまひにはどうせ売るものぢや。そりや売らなくても金さへ有ればだけんど、知つての通りの貧乏ぢやい」
 弟「おらも行きてえなあ」
「馬鹿あこけ! お前が行つてなんになるだ?」
「んぢや、軽便迄でいいから連れてつてけれ」
「いけねえ。馬車賃かさんで、おいねえ。それよりも帰りにお土産持つて来てやるで、お前は留守番をしてゐてくれ。なあ、隣りのお母ア」
 小母「それがえゝ、わしと
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