ハハ。ようし、こんだ一杯買うぞツ。さあ殿様、乗つたり!」
押し乗せられる一六。窓から上半身を出してスミに耳打ちをする。スミかぶりを振る。やがてコツクリをするスミ。それを見ながら彦之丞「スミの事、可愛がつてくれよつ、一六! 俺らお前を信用しちよるぞ、一六! スミは物知らずぢやが、気立てだけは無類の子ぢや。正直マツトウで腹の中の綺麗なことだけは天下一ぢや。頼んだぞつ! 言ふ事聞かねえ時あ撲つてくれ、貧乏の苦労だつていくらでもさせてえゝ、たゞ可愛がつてくれろやつ! なあつ!」言ひながらボロボロ泣いてゐる彦之丞。
一六閉口して「大丈夫だよ、小父さん、大丈夫だよ」
「アハハハ、よしよし、仲あ良えぞつ! 仲あ良えぞつ!」
羞しがりながら父を睨むスミ。
○馬車が動き出す。(音楽)
彦之丞、おどり上つて見送る。「バンザーイ!」
笑つて見送るスミの眼に涙があふれる。
車窓で帽子を打振る一六。
遠ざかり行く馬車。
スミの頭に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]したカンザシの桃の花が揺れる。
○翌日。
花嫁の出発。
父親も子豚十五頭を連れて一緒に
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