の見えなかつた、直ぐ横ツチヨの草むらの中から少年少女が四五人、バラバラと飛出す。すべつたり転んだり、笑ひはやしながらにげて行く。彦之丞、手を振り上げて見送つてゐたが、直ぐに笑ひ出す。
「アツハハハハハ、阿呆め! おらがとこのスミと楠一六公はな――」
えらい上機嫌で言ひながら、二人に近附く。「天下晴れたる――」
「小父さん――」閉口してゐる一六。
きまり悪がつて袖で顔を蔽つてゐるスミ。
「アハハハ、楠一六公、バンザーイー」。その同じ大声で「おーい、まだ出ねえかあ?」
○「おいよう、出るぞう」立場茶屋の裏の辺から馭者の声。
続いてトテツテテテ……と響き渡るラツパの音。用便でもしてゐたのかノソノソ出て来る馭者。彦之丞同じ調子の上機嫌で、
「さあ乗れや一六! 大丈夫だよ! 花嫁さんは明日出立だ。軽便までは俺が送つて行くだ、心配すんな! さ、乗れよつ! (馭者に)おい馬造公、頼んだぞ、大事な婿ぢや!」
「あれま、さうかい! そいつは、めでてえ、アハハハ(スミを見て笑ひながら馭者台へ。スミ馬車の後ろに隠れる)アハハ。あゝよつ! 今日はまだ客がねえで、貸切り同様でえ! 殿様だよつ!」
「アハ
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