おつかない? そんな事あない、見てゐると良い気持だ」
「へーん?」
「見ればわかるよ。見ればわかる。アハハハ」
花嫁も笑ふ。
「笑ふと、何て君は可愛くなるんだらう!」
「……そんねにキツクすると、息が苦しいが! やん!」
○それまで風景や桃の花ばかりを映してゐたカメラが不意に角度を変へたと思ふと、村はづれの峠の上、人の居ない立場茶屋の傍の、見事に咲いた桃の木の下に、並んで草むらにしやがんだスミと一六をキヤツチする。(UP[#「UP」は縦中横])
停つてゐる乗合馬車。
一六が桃の小枝を折り、スミの肩を抱くようにして、田舎島田に、カンザシに※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]してやる。
「やーい、やつとらあ! やつとらあ! スミ公! 一六! 一六勝負! 勝負はどつちだ、一六勝負!」
はやし立てる四五人の声。
びつくりして、声の方を見る一六とスミ。
「こらつ! なん奴ぢやつ!」彦之丞のドラ声。丁度一六のカバンを下げて坂を登つて来た彦之丞が峠に登り着いた姿が頭から肩、腰と見えて来る。まだ酔つてゐる。
「なん奴だつ!」
怒鳴られて、それまで人の姿
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