らなあ」
「なんでも無いさ。そら、君の分まで買つといたから、この切符で乗つて、黙つて坐つてればひとりでに東京に着く。乗合馬車に乗つて、次に軽便鉄道に乗つてさ、そいから此の切符で省線に乗り換へればいい。省線の駅迄は行つたことがあるだろ?」
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画面に入れてもよろし(切符を渡す花婿の手と、それを受取る花嫁の手)
[#ここで字下げ終わり]
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「うん、二度行つたことあら。……だども、汽車こ乗つてて、もしかしてズルコケて、落つこちたら、どうしべね?」
「そ、そんな、大丈夫だよ。寂しいだらうが、その代り東京に着いたらウーンと可愛がつてやるぜ。食べたいものでも見たい物でも、なんでも――」
「東京にはなんでもあんのけ?」
「あゝ、なんでもある」
「ぢや、おら、海つうもんば見てえ」
「ウミ? あゝ海か。あ、あるとも」
「水が一杯あつて、キリが無えつうのはホンマかえ?」
「うん、ホンマだよ、ホンマだ」
「海の色、青いの?」
「青い。青くつてキラキラして綺麗だよ。丁度よく晴れた空みたいだ」
「そんねえに、青い水一杯あれば、おつかないだろ?」

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