悪かあ無え代物さ。腐れ金で建てた百姓家の一軒や二軒灰になつた位が何んだ!」
 スミ、びつくりして「へつ! あんですか?」

 土方「いや、さうぢやなからうかと言つてゐるんだ。ビツクリしなくともいい。アハハ。お前さんは気立てのいい娘だ。お前さんの様に腹ん中の綺麗な人を見るのは、私あ初めてだ。――東京に何をしに行くね?」
 スミ「一六さん、待つて居ります」
 土方「兄さんかね?」
 赤くなつて、かぶりを振るスミ。
 土方「御亭主か? さうか。ぢやお前さん嫁入つて行くんだね?」
 スミ「……(小さい声で)へい」
 土方「さうか、そいつは、めでたい。可愛がつて貰ひなよ。お前さんを嫁に持つ男は日本一の仕合せ者だ。さうか!」
 スミ「んで、小父さんは、こいから、どこへ?」
 土方「何処へ?……さうだ」
 考へてゐたが、隅の刑事と信太郎の方を見て、フイと立ち、ヂツと見詰めてゐる。――

 再び坐つて、お若を眼で捜して、少し離れた所に居るお若に、
 「あんたあ、町へ身を沈めるのは止しにして、村へ帰つて、あの人の帰るのを待つてゐるがよいよ。あの人は二三日したら放免されて戻つて来るさ。帰りな」

 お若は
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