訳がわからず反問する。

 土方「俺がさう言つてゐるんだ。俺の言ふ事が信用ならねえのか!」と怒鳴る。
 お若「では帰ることにします」

 やつと笑ひ出す土方。
 土方の血だらけの〔手を〕手当してやるスミ。
 スミに向つてする土方の短い述懐。
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地主邸放火の件を自首して出る気になつてゐる事を短く、鋭く。
それは悔悟の気持からではない。人生観の自己崩壊からである。――この点を強くダイアローグの中に入れる。
[#ここで字下げ終わり]
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 無心にホータイをしつつ聞いてゐるスミの手の甲にポタリと落ちて来たものがある。
 びつくりしてスミが見上げると土方の眼に涙が一杯。涙を拭きもしないで、スミを見たまま頬笑んでゐる土方。

○そこへ車掌が来て、線路の岩の取りのけがスツカリ済んだから、直ぐ発車しますと告げる。
 喜び湧立つ車室内。

 楽士達が、おどり上つて楽器を鳴らしはじめる。楽隊。(音楽、楽隊。元気の良い行進曲かなにかを)

○列車動き出す。初め徐行。崖くづれの個所を通り過ぎた後で速力を出す。

 客車内は明るい。喜び勇んだ乗客達
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