しくもあれば腹も立つ事である。
(地主邸に放火をしても平然として逃げつゝある自分がこんな風にトツサに人間らしい気持から人を救つたことが、彼には自分の敗北の様に意識されるのだ)――
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
スミ「……あんの事だか、おらにや、わからねえ」
土方「アハハハ、お前さんにや解らなくていいさ。――(急に真面目に)あの男あ東京に居る頃、千円あまりも俺に借りがあつたんだ。金ばかりぢや無え。世話だつて、どいだけやいてやつたか解らねえ奴だ。ハハ、こう見えても、私あ、元東京で手広く請負稼業をやつてゐた事がある。その頃の話だ。かうして今ぢや落ちぶれてしまつたがね。通りかかつたもんだから、彼奴の事思ひ出して、どうしてゐるかと思つて寄つて見りや、ユスリにでも来たかと思やがつて、十円パツチの包みを出しやがつて追払ひにかかるんだ。高利の金を貸して、人を泣かした揚句が、今ぢや地主か何か知らねえが、へん――あんまり癪に障つたから怒鳴つてやつたら、人を呼んで来て叩き出しにかかるんだ。あんまり、ナメた真似をしやがるから、――なあに、あんな奴あ叩き殺せばとて、世間の功徳にやなつても、
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