どうも御骨折、ありがたう。私はこんな者だが、人命救助として報告したいから――」
土方、愛想も無く相手にならぬ。
車掌が「会社の方へ申告して、御礼をする手続きをしますから、御名前と御所《おところ》を――」と言つて来る。
「礼が欲しくつてやつた事ぢや無いんだ」――なんだか怒りを含んだ声である。
プイと窓の方を向いて相手にならぬ。
○スミが礼を述べる。
スミにだけは返事をする土方。
スミと土方の対話。
「全く馬鹿な話さ。誰だつて、人の世話あ焼かねえ方がいいんだ。死ぬ奴あ、死んだ方がいいんだ。馬鹿な!」云々。何の事だかわからずにビツクリしてゐるスミ。
時々トンチンカンな問ひをするスミを相手にして土方の述懐。
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(ダイアローグはコンテイの際に。此のダイアローグは重要である)
土方の哲学――悪徒のツムジ曲りの人生観――トツサの間に人命を助けたことに就ては、彼は自分自ら、そんな気持が自分の裡に残存してゐたことに就て、ひどく驚き、且、心外に思つてゐるのである。
且、自分の人生観体系が、こんな事で崩壊したのを見るのが、彼にして見れば悲
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