、黙つてゐる土方。

 大岩の取りのけられた後は、線路には三四岩があつても小さな奴なので、取りのけるのに大した手間はかかりさうに無い。

 人々の間にやつと喜びの話し声が起る。

 客車の方へ引き上げて行く乗客達。

○客車。
 今の騒ぎのことをガヤガヤと喋りながら、席を取る乗客達。
 血だらけになつた片手を拭きながら戻つて来る土方、その後ろからスミ。スミの後に引き添つて楽士。それからお若。お若のそばを離れようとしない旅商人。

 皆は、まるで英雄を迎へるやうにして土方を迎へるが、土方はムツツリしてゐて、どうしたのか酷く不機嫌である。最後から刑事に附添はれて戻つて来た信太郎が心から土方にすみませんと言ふが、土方はプイと横を向いてしまふ。

○金持の紳士が皆を代表したやうな口の利き方で謝意を表し、飲んでゐたウイスキーを土方に差さうとする。
 土方、ことわる。
 紳士、更にしつこく差す。
 土方「いらねえと言つたら」と振つた手がウイスキーの瓶とコツプに当つて、それが床に落ちて割れる。

 そのために何となく恐れをなして、スミに附きまとつてゐた楽士が、コソコソ立つて仲間の方へ行く。
 刑事「
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