ければ再びにげ出しでもされるかと思つて、モヂモヂしてゐるが、現場の方の悲鳴は益々烈しくなるので、二人を振返りながら、現場の方へ走り出す。
 土方「――おスミさん。――全体どうしたんだ?」
 スミ「へえ――そのユリと言ふ人、おら、着物ばやつてにがしてやつたのです」
 土方「……ぢや、知り合ひなのかい?」
 スミ「いんね。この前の停車場んとこで、コロの箱の方さ行つて見たら、そん人、車賃なくて只乗りしてゐた。可哀そうだで、着物着がへて、銭やつて、そいで、あとの軽便乗るやうにつて、降ろして――」
 土方「さうか――」スミの顔を見てゐる。

○現場の人々の騒ぎは止まらぬ。
 土方、そちらへ行く。
 スミもそれについて行く。

 人々の間から覗くと、岩を早くのけようと焦つたために、少しゆらいだ岩に足の先を食はれて倒れて唸り声を立ててゐる保線工夫。
 それを囲んで人々の狼狽。
 乗務員や乗客の中の二三の男(――楽士)や刑事などが、その岩を反対側に動かさうとして岩に取りついて力を入れてゐるが岩は動かぬ。
 保線工夫「うーん。向う側の足の下のバラスの所ば掘つてくれ、さうすれば抜けるんだ! うーむ」
 運
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