た曲馬団の者なんですけどね、十七になるダンサーが一人ずらかつたんですよ。私等あそれを捜すのを言ひつかつて、昨日以来どれだけ骨を折つたか、わからねえんだ。そのユリと言ふ奴の洋服を此の人が着てゐるんで――」
土方「なんだか知らねえが、此の人なら怪しい者ぢや無え。ズーツと俺も道連れをして来た……」
スミ「おスミ……」
土方「おスミさん――だ」
楽士「しかし、ユリの洋服を着てるんだから、係り合ひが無えとは言はせねえ。とにかくE市までは一緒に行つて貰ひたいね。警察へ行きや、話して貰へようからね」
哀願するやうに土方を見るスミ。
土方は、「警察」と言つた相手の顔をヂロヂロ見てゐるだけでだまつてゐる。
楽士「いいね? 又にげ出しちや、困るよ」
スミ「へえ……」
○崖くづれを取りのける工事をやつてゐる一群の方から、烈しい男の悲鳴が聞えて来る。振返ると、その辺、立騒いでゐる人影(乗務員、刑事、青年、お若、その他)。
楽士連「あ、どうしたんだ?」
楽士達の中の三四人はバラバラとそちらへ走つて行く。
列車に戻つてゐた乗客連も再び現場へ走つて行く。
楽士の一人は、スミを見張つてゐな
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