をうかゞひに這ひ出して、そこでウロウロしつつ此方の方を見てゐるスミの姿である。
 楽士「おい、あれは――?」
 他の楽士「あゝ、ユリぢや無いかな?」

 楽士達バラバラと走つて近寄る。スミ逃げ出す。
 列車をめぐつてにげ廻るスミ。
 崖くづれを取りのける仕事に加勢しようともしないで、ノソノソ列車の方に戻つて来た土方に逃げて来たスミがぶつゝかる。
 土方はスミを認めて「あゝ、あんた。どうしたんだ?」

 追つて来た楽士達が迫つて、やにわにスミを掴み、
 「ユリ、貴様あ、よくも!」「さあ、もう逃しはしないぞ!」等々言ひながら、こづき廻す。しかし楽士達も直ぐに人が違つてゐることを発見する。身装はユリであるのに人はまるきり違つてゐるので、どう考へてよいか解らず、面喰つてゐるのである。
 わけがわからず、スミと楽士達を見較べて黙つてヂロヂロ見てゐる土方。

 楽士達がスミに、どうしてユリの洋服を着てゐるのかと問ふ。スミそれに答へようとして、しかし答へると事情がわかつて再びユリが危くなることに思ひ至り、口ごもり、返事をせぬ。楽士達、詰問する。そして土方に「――いえね、私等あ、昨日までC町で打つてゐ
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