たと思つて、保線課へ通知しようと思つても、此の辺、電話あ無しさ。弱つてね。いいあんべえに、金テコと鶴ハシはかついで来てゐるんで、小さい奴二つ三つはどけちやつたが、あとはどうにも重くつて手に負えねんだ。なあに、線路は大して痛んでゐねえから、どけさえすれば、車あ通れねえ事あ無えが、なんしても大き過ぎらあ」
 運転士「とにかく、君、次の駅まで走つてくれ」
 走り去る車掌。

 直ぐには修復出来さうも無い。乗客達ボヤく。「おやおや。こんな所で立往生か!」等々々々。
 刑事「困つたなあ。(運転士と工夫に)とにかく、どけるやうに、やつて見てくれないか」
 「えゝ、しかしこれだけ大きいんですから」
 刑事「ちよつ、しようがねえな、全く……」
 「済みません。一つやつて見ませう」云々。

 工夫と乗務員達が、金テコを岩の下に差しこみにかかる。

 大ボヤキにボヤいてゐる金持の紳士。

 運転士が乗客達にあやまり、とにかく、車室に戻つて待つてゐてくれと頼む。
 愚痴タラタラで車の方へ歩き出す乗客達。
 先頭に進んでゐた楽士の一人が、
 「おやつ!」と言つて車の方をすかして見る。
 それは車掌室から、様子
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