れを覗いてゐる豚達の鼻づら。

 外は暗い。

 洋服を上手に着ることは諦めて、車掌室の隅に、小さくなり、心細くうづくまるスミ。

 列車の進行。

 スミがウトウトしてゐる。

 不意に停車する列車。
 動揺のためにハツと我に返るスミ。

 「どうしたんだ?」「どうした?」と客車の方で騒いでゐる声々。

 後部の豚に似た顔の車掌が、スミの箱の前をサツと駆け抜けて行く。

 驚ろいて、首だけ出してスミが前方を見る。
 カツと明るいのは、少し離れた前方の線路の傍に旺んな焚火が燃えてゐる上に、カンテラの光と、列車のヘツドライトが丁度その辺を照し出してゐるためである。一人の保線工夫(丁度見廻りに来て、線路の故障を発見して警報のために焚火をするのと同時に、故障をなほしにかかつてゐた者)が、此方に向つて両手を振り、怒鳴つてゐる。小さい崖くづれが起きて、線路上にかなり大きな岩が二三個、転がり落ちて来てゐるのである。

 列車の運転士をはじめ、火夫、車掌等その方へ走つて行く。乗客連も次々に降りて、ゾロゾロ見に行く。

 「今夜あ、悪いことに一人で出て来ましてねえ、此処まで来ると、これだらう! しまつ
前へ 次へ
全50ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング