る。

 スミは早く此処を降りて、二つ三つ後に通る汽車で逃げろと言ふ。しかし、ユリの身装を見ると異様なダンサー姿である。このままで行けば、又直ぐ見つかつてしまふだらう。発車は迫つてゐるし、スミは仕方なく、ユリの洋服を脱がせ、自分の着物をスツカリ脱いでユリに着せる。

 発車の汽笛。
 泣いて感謝するユリをせき立てて、外へ下ろす。ユリは車の人に見つからぬやうに、這ふやうにして、闇へ。スミの方を向いて伏し拝みながら。
 列車は発車する。

○客車内。
 やつと発車したので、喜んでゐる楽土達。
 (楽曲の流れを此処でミートさせる)
 お若がキヨトキヨトして、スミの行方を捜してゐる。

 楽士達の楽隊が止む。

 土方もスミの居なくなつたのに気附いて、
 「あの娘さんは、どうしたのかね?」
 お若「へえ……私もさう思つて――」不安になつて立ちかける。
 旅商人「なあに、便所だよ。ヘツヘヘヘ!」

○第二番の車掌室では、
 下着一枚のスミが、洋服を着ようとして苦労してゐる。長いストツキングを引つぱつて見たり。恐ろしく短いスカート。――引廻しマントが有るので、からうじて外見だけはごまかせる。
 そ
前へ 次へ
全50ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング