に懇意な男がゐるから、いつそ、私と一緒に其処に行つたらどうだね? あんた位の器量なら直ぐに置いてくれるよ。料理屋などと違つてチツプチツプで稼ぎは大きいしさ。私にまかせなさいよ。今夜はどうせ遅くなるから、Dに泊つてさ。私が連れて行つてあげるから――」云々とひどく乗り出して来る。
 土方「……とんだ男気のある仁も有るもんだ、アハハハ。だつてお前さん、あの人が火附けなどをする筈は無いと言つてたぢや無いか? んぢや、直ぐに調べが附いて放免になる筈だ。そんな大袈裟な事をすることも無いやね」
 お若「それはさうですけど、信太さんには前申したやうに真犯人と疑はれても動きの取れない事情が有るもんだで……いづれ急には、どうと言つて――」

 旅商人「さうだなあ。そいだけ口が揃つてゐるんぢやなあ」
 土方(お若に)「ふん。警察にしろ裁判所にしろ、あき盲ばかり居る訳でもあるめえ。本当に犯さねえ罪なら、やがては身は晴れるだらうさ。そんな事よりも、本当に怖えのは、親切さうに持ち込んで……ヘツヘヘヘ」
 旅商人「……おい君!」とからみかける。「君あ、なにか……」
 返事をしないでヂロリと見る土方。二人の睨み合ひに
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