兄の家に寄食して農業や家事を手伝つてゐた)と信太郎との夫婦約束のこと。(話の途中にも列車は一回停車する。話の一番デリケートな部分を停車中にさせるやうにはめ込む)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
 スミ「そいで、あんた、どうすんの?」
 お若「E市迄ついて行きます。そこで裁判のすむのを待つだ。信太郎さは必らず無罪になります。あの人は火附けなどをする人では無えもの」
 旅商人「待つと言つても、どうして待つてゐるんだね?」
 お若「勤め口を捜します。まさかとなれば身体を金に代へてでも稼ぎます。信太さんには誰一人差入れをしてやる人も弁護士を頼んでやる人も居ないのです。それにあの人の留守の家には病気のお母さんと子供が二人居ります。仕送りをしてやらねえと、かつえて死んでしまふ。それを私がしようと思つて居ります」

 お若の顔を見詰めてゐる土方。

 旅商人「そいつはいま時感心な話だ。なんなら私が勤め口の世話をしてやらうぢやないか。E市には口入屋に知つたのが居るし、もし又間に人を立てるが嫌ならば、二三里離れてはゐるが△△町の銀座会館と言ふ一流のカフエーのコツク
前へ 次へ
全50ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング