リポツリと寂しく人家の燈火が点綴する。
時々、列車は停留所(停車場)に停る。走つてゐる時間よりも停つてゐる時間が永い位の停車である。
単線のためホンの二三ヶ所で一二の乗客が乗つて来るだけ。
お若がスミに向つてポツリ、ポツリ、と言葉少なに語り出す話。――二人の直ぐ前向ふの席の隅に坐つてゐる土方が怒つた様なムツツリした顔でそれを聞いてゐる。
――近くに坐つた旅商人も勿論聞いてゐる。
[#ここから2字下げ]
――(信太郎が地主放火犯人容疑者として引かれて行くやうになつた事情。……青年はかねてその地主の小作をしてゐたこと、地主から借金(滞納小作料)してゐたこと、最近小作料釣上げの問題から地主の方では小作田の取戻しにかゝつてゐて、それに就き信太郎の方から地主宅へ行つて交渉してゐたこと、極く最近に地主が青年をひどく撲り辱かしめた件の有つたこと、放火未遂当夜も宵の口に青年が地主邸へ行つてゐるのを村人から見られて居る事、そのために青年に対して好意を持つてゐる村人からまでスツカリうたがはれてしまつたこと等――。それから自分の境遇(少女の頃、製糸工場に女工に出てゐたが、病気になつて帰村し、貧しい
前へ
次へ
全50ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング