打つてゐる連れの女。
 向ふの隅に坐つた信太郎と、此方のお若は黙つて眼と眼を見詰め合つてゐる。

 発車のベル。

○そこへ駆け付けて来るサーカスの団員(中に楽士も二三人ゐる)一行の五六人。楽器などの荷物を持ち、口々にわめきながら、改札口をドヤドヤ走り入つて来て、車に乗り込む。――ダンサーの一人が逃げ出したことを語り合ひながら。(此の四五人はそのダンサーを捜しかたがた、サーカス団の殿《しんがり》として最後まで残つてゐたらしいが、もう出発しないと次の町の興業に間に合はぬので、一人を捜査役に残して出発するのである)――「なにしろ、ユリもうまい事をやつたもんだよ。お蔭で迷惑を見るのは俺達だ。ユリが見つからねえと、ダンスがやれねえから、捜すのはお前達の責任だぞと来た。団長も人は好いけど、直ぐに責任と来るから、いやんなつちまわあ」――等々と喋る。

 箱の中は急に賑かになる。
 (この間に、短いが、いろいろの風景と会話が点描される)

 発車。
 外はスツカリ夜になつてゐる。箱の中だけが照し出されて明るい。

○心細い速力で走つてゐる客車の内。

 窓外には黒々とした山や森や川等の風景。
 ポツ
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