ミの眼に涙。
 (伴奏音楽)
 ヒヨイと気が附くと、あたりは少し薄暗くなつてゐる。
 スミびつくりして待合室に入つて行く。

 待合室は既に電燈で明るい。
 既に改札口は開いてゐて、お若と土方を残して他の旅客は全部、軽便に乗り込んでしまつた後である。

 土方が腕を組んで立つたまま、お若の顔をヂツと見てゐる。
 お若も土方を見てゐる。
 土方「……そいで、あんた、ついて行くのかね?」
 お若「へえ、信太郎さには、別について行つてやる人居ねえので、私、どこまででも、ついて行つて――」
 土方「どうするんだ?」
 お若「どうするつて……とんかく見とゞけてあげるです」
 土方「……さうかい、ふん」

 スミの入つて来たのを二人見る。
 お若「あゝ、あんた、早くしねえと、もう出るが」
 スミ「へい、どうも、ありがたう」荷物を取る。

 土方はノツソリ歩き出して切符を買ひ、改札口を出て行く。スミとお若、出札口へ。
「あんた、銭無えのではねえの?」
「いえ、有る。軽便だけは乗つて行く積りで来ただから」
「おら買つてあげる」
「いえ、そいじやお気の毒だ、そんな――」
「すれば、汽車にも乗つて行けら」
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