ミ不思議に思ひ、それを凝視する。足はスツと何処かへ消える。
 何だらうと思つて考へてゐるスミ。

 やがて再び町通りの方を眺めるスミ。

○通りを此方へ向つて、ひどくのけぞる様な格好でユツクリ歩いて来る人の姿。見るとそれは区長である。竹の皮包みを下げてゐる。待合室の前に置いてある乗合馬車の方へ。
 何かを非常に食ひ過ぎてゐるらしい。
 どうしたのかと、それに近附いて行くスミ。
 キクツキクツと区長はシヤツクリをしてゐる。

 馭者(既に馬車の上にゐる)「おそいなあ区長さん! もう出るぜえ!」
 区長「やあ、済まんのう。あんしろ――ゲツ」
 区長は馬車に乗る。
 スミ「小父さん! お父うがまだだから、もう少し待つてくだせえよう!」
 馭者「仕様無えなあ。彦さは又どつかでドブロク引つかけてんだ。早くしねえと困るがの? 暗くなつてしまふと、方々に崖があるで危ねえからな! チヨツ、仕様の無え飲んだくれだぞ!」――鞭を鳴らす。

 スミはヤキモキして通りを見たりする。

 四辺にポカリと電燈がつく。
 そのついたばかりの広場の街燈の下から、よろめき出るようにして、フラフラする足を踏みしめ踏みしめ
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