たもんだから……どうぞ、ごめんなせ」キクンと腰を折つて最敬礼であやまる。
しかし今度スミが頭を上げた時には、既に少女の姿は見えなくなつてゐる。(建物の角を後退りに折れたのだらう)スミ、ばかされた様な顔付きで少しキヨトキヨト見廻すが大した事でもないので、まだ父は来ないかと町通りを眺める。――
駅前のガランとした広場。それに続いて、田舎町の通りの風景のパースペクテイヴ。人通りも少く、勿論、父親の姿は無い。
広場へ出て、もつとよく通りを見透さうとスミは広場の手前を横切つて、駅の柵の方へ近づく。
柵の内側は、荷役をする場所になつてゐて、既に大半の積込みを済ませた小さな軽便鉄道の荷物車が二つ見える。
スミが柵に近づくと、急にギーギーブウブウといふ鳴声がするのでヒヨイと見ると、二つの荷物車にはギツシリ豚が積込まれてゐるのが横板の間からのぞける。
スミはびつくりしてそれに気を取られ、柵につかまつて、延び上つてそれを見る。
荷物車の向う側でウロウロしてゐる人の姿が、車と線路の間からチラチラ見える。それが人夫でもなければ駅員でもなく、薄色のストツキングに踵の低い靴を穿いた細い足である。ス
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