のそぶりの変なのを見てゐる。スミ、お若の見詰めてゐる方を見ると、駅長室らしい所に刑事と青年が居るのが硝子戸越しに見える。刑事は駅長と何か話してゐる。信太郎は椅子にかけてうなだれてゐる。
 スミ「……あんた、掛けねえの?」
 言はれて、お若、スミの傍に掛ける。
 旅商人「なんですい?」
 うつむいてしまふお若。
 お若と駅長室の二人とをキヨロキヨロ見くらべてゐる旅商人。――やがてハハーンと言つた顔をして、お若を見詰める。

 旅客が一人入つて来る。
 それをキツカケにして旅商人、気を変へて、
 スミに「あんたあ、どこの村かね?」
 スミ「へえ……」
 旅商人「こんな歌知つてゐるかね? へへ……」少しいかがわしい流行歌を唄ふ。

 歌の意味がよくわからずニコニコして聞くスミ。
「うるせえな」と寝ながら言ひ放つ土方風の男。

 旅商人びつくりして歌をやめる。そちらを睨んでしばらく黙つてゐたが、スミに馴々しく話しかける。
「あんた、どこへ行くの?」
 スミ「あのう、東京へ……」
「東京? へえ。それは遠くへ、まあ。そいで東京へは、なんしにね?」
 スミ「あのう……」赤くなつて返事出来ぬ。
「一
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