がこんな不景気になつて来れば、人間の気持もあらくなつて来るわけだな――」云々。
 彦「しかし世間一般が不景気だとばかり言へめえ。C町あたりでは、いくらか景気が出て来たと言ふではねえかね? あんでも、C町の市場辺では此の前の牛市からこつち、曲馬団や見せ物が掛つたりして、まるでお祭りみてえな騒ぎだと言ふ」
 「あゝに、つまる所どこもかしこも不景気で、しよう事なしに、こんな所まで曲馬やなんぞが入り込んで来るのさ」
 「今日ばかりは酔ふと困るから」と酒を控へるように父に頼むスミ。
 「大丈夫々々々」と言ひながら、差されるまゝに飲む父親。

 酔つて歌ひ出す区長。「相馬二遍返し」
 その歌に感動して、屋根の上でギイギイギイと鳴きしきる豚達。

○右の経過と同時に、移り行く車窓外の風景。山村、遠くの山々、近くの小山や森、街道添ひの家々、等々。
 次第にC町に近づいて行くらしい。

 沿道。それまでは一人も客は無かつたのが、此のあたりで前方の道角に立つて馬車に向つて手を上げてゐる中年の男。すぐそばに、一人の青年が立つてゐる。
 馬車停り、二人の客を乗せる。(この一人は刑事で、もう一人の青年は引かれて
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