と、豚達と、それから、鳴り渡る奏楽を乗せた列車が、暗い夜の中を走る。(朝にすれば変る)
○E市の警察署(らしい)近くを刑事と信太郎、それに曲馬団の一人に連れられたスミが行く。
少し離れて、お若が行く。それから土方が附いて行つてゐる。その後からキヨロキヨロと旅商人が追つて行く。
警察署の表札の下部が見える。
その門内へ、右の人々が次々に入つて行く。土方も入つて行く。
門の所に旅商人だけが取残されてポカンとしてゐる。
○鬚を生やして眼鏡をかけた制服の人(署長)が何か聴取してゐるらしい顔。
壁の上の八角時計。
○制服を着た右手が、壁につるした大きなメクリ暦を一枚めくり、二枚めくり、三枚めくる。
○朝。
陽がカツと明るく照してゐる。
通用門の外である。代書屋がある。
代書屋の前でシヤガンで、人待顔に通用門の方を見てゐるのは旅商人。
通用門から、ニコニコして包みを持つた信太郎来る。
続いて荷物を持つたスミ。それからお若。三人とも喜色を浮べて。――スミは片手を廻して背をポリポリ掻いてゐる。
信太郎とお若がスミに礼を述べる。
そしてお若が「私達は真直ぐ村に帰るので、これは要りませんから、どうぞ取つて下さい」
と貰つた金を返す。
「しかし汽車賃が要るだから」とその中の二三円をお若にやるスミ。頂いて礼を述べる信太郎とお若。
スミ (門内を振返つて)「んでも、あの小父さんもなるべく軽くて済めばよい」
三人門内を振返つてゐる。
やがて三人、互ひに旅の無事を祈り合ひ、なつかしさうに涙ぐみつゝ振返りつゝ別れる。(スミは省線の駅の方へ。信太郎とお若は軽便の始点の方へ)――
ガツカリ見送つてゐる旅商人。
○スタスタ急ぐスミ。
「おすみさん――と言ひましたね」振返ると旅商人だ。
「これからどちらへ?」
返事をせず歩き出すスミ。しつこく追つて来て色々話しかける旅商人。果ては荷物に手を掛ける。
振返つて、いきなりスパツと相手の頬に平手打ちを喰はせるスミ。向直つてトツトと歩いて行く。――
毒気を抜かれてポカンと見送る旅商人。
○上野駅のプラツトホーム。
心配そうに焦々して待つてゐる楠一六。彼の手に電報。
その発信局の名がE市の駅。それが彼には訳がわからぬ。
○列車到着。
一六、眼を皿にして捜すがスミの姿無し。箱を次々にあわてて捜し
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