なんだか変だと――
百姓 おらかい?
青年 だけど、小父さんだとばっかり思っていたもんだから――。
百姓 おれは、おなごだあ。よっぽど、こんで古くこそなったが、へえ、おなごの古くなったので……やっぱし、こんで、ババさまだらず。(殆んど福々しいと言える位に柔和な笑顔)
青年 どうも――
百姓 ……(前歯の抜けてしまった大口をパクパク開けて笑いながら、麦こきを続ける)……こんで、暗くなってから家さ戻ったりすると、孫共あ、火じろのわきから俺の方ジロリジロリ見て「おばあ、チョックラ[#「チョックラ」は底本では「チヨックラ」]向う向いて見な」などと言いやす。お尻からシッポでも生えてるかと思うづら……ハハ。もっとも、こんで、シッポこそ生えねえが、甲らあ固くなりやした。
青年 おいくつになりました?
百姓 齢かい? フフ……六十七だ。どうして六十七なんてなっただか、知らん間に年ばかり拾って、足腰あ利かなくなるし、へえもう、しょう無えよ。
青年 ……よく、しかし、精が出ますねえ、(話しながら草場に腰をおろしている)……小麦ですか?
百姓 ……そうだよ。
青年 そこに生えてる、そいつは……?
百姓 うん
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