えで、向うへ行ったら、へい今日はと言うて、踊り込んで行け。
女 ……(笑いながら)いろいろと……そんじゃ……伯父さんも大事に。
百姓 うむ……。
女 ……(青年に向って頭を下げて)ごめんなんして。
青年 はあ、どうも――。
[#ここから2字下げ]
(若い女、出て来た方へスタスタと歩み去って消える。百姓、その後姿をチョット見送っているが、直ぐに又、麦をこきにかかる。……青年は、先程から強く動かされているが、その感動は、非常に静かな底深いものであるために、差し当りどんな表現もとり得ない)
[#ここで字下げ終わり]
百姓 ……あやつも、苦労する……(片手をあげて、その人差指の先で、眼頭の涙を拭く)……ふん……(涙を出したことに、はにかむような微笑で青年をチラリと見てから、千歯の端をトントンと叩いて)さあて、こんで、へえ……(前に廻って来て、ムシロの上にかがみ込んで、こき落した麦の粒と、まだ穂のままになったものとを手であら選りをして分ける)
青年 ……おばあさん……その、ハガキと言うのを、見せてくれませんか。
百姓 なんだえ?
青年 いえ、そのガダルカナルでなくなられた息子さんの……
百姓 …
前へ 次へ
全78ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング