…(立上り、ムシロの一端を掴んで、パッパッと調子よく内側にはたいて、麦の粒を一個所に集めながら)道雄のハガキでやすかい?
青年 はあ。……すみませんが。
百姓 だども、なんとして、お前さま?
青年 ……別に……ただ、読ませていただきたいと思うんです。
百姓 ……ふん……(しばらくためらっていたが、やがて、単純に帯の下を掻きさぐって、布で包んだものを取り出し、布をほどいて中から何枚も何枚もの紙でくるんだ古いハガキを取り出し、きまり悪そうにそれを差し出しながら)へえ、つまらねえハガキだあ。
青年 ……(受取ったハガキの表をジッと[#「ジッと」は底本では「ヂッと」]見、やがて裏を返して見詰め、粛然として読む。……その間も百姓は、穂のままの麦を掻き集める仕事に余念も無い)
青年 ……(読み終って、静かな無表情な顔で頭を下げ、ハガキを百姓に返す)……ありがとう。
百姓 うむ……(ハガキを元の通りに紙と布で包んで帯の下に突込み、それからムシロの傍に置いてあった叩き棒を取る)
青年 御最後の模様は、わかっていますか?
百姓 ……やあ、そいつは、まだ、よくわからねえ。だども、へえ、兵隊のこんだ、いずれ
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