百姓 うむ、小淵沢なら一時半と、その次ぎは三時だ(語りながらも、ムシロをチャンと引っぱったり、千歯を据え直したりしている)
青年 そうか。……(ホッとするが、尚もう一度たしかめるため、ポケットから時間表を出して時間を繰っている)
百姓 東京へ行くんだら、なんでも、その次ぎの六時ので行っても、レンラクは有ると聞いたがなあ。(麦こきの仕度が出来て、一息入れるために笠をとる)
青年 なに、東京へチョット寄って、今夜中に横須賀へ出なくちゃならんもんだから。……ええと十九時……よしと。ハハ、なんしろ道に迷ったんじゃないかと思ったもんだから……しかし、こうなると却って時間が余ってしまった。――(言いながら頭を上げて相手を見て、びっくりして言葉を切る。時間表を調べている間に笠をぬぎ頬かむりを取ったのを見ると、殆ど白髪になった頭髪に小さく結った髷が現われる。しわが寄り、陽に焼けて、眼つきのおだやかな、とぼけたような感じの老媼の顔。先程平手でこすった時に附いた土が鼻のあたりに鬚のように残っている)
百姓 さようさ……(額に掌を当てて少し傾いた太陽を見上げ、次ぎに、ぬいだ手拭で顔を拭きなどして)今から三時
前へ 次へ
全78ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング