は、八ヶ岳を越えて――。
百姓 そうかい。それじゃ、海の口の牧場を通って来なすったずら?
青年 さあ、よくわかりませんが、……あれが牧場だったんですか? 柵で囲んだ所を通りました。
百姓 そうかい。……そうよ、野辺山なら、この草ん中あドンドン此の方角へ行きやすとな、いろいろ小径が有るがそんなもんに目をくれずとな、真直ぐに七八丁行くと、営林区の林道に突き当るから……林道と言っても草の生えた、そうよ、唐松の林を二間幅ぐれえに一直線に切り倒したとこだあ、それを左へ行くと直きに運送の道路に出るだから、それに附いてドンドン行くと、県道になるからな、それを右へ取って行くとひとりでに野辺山の駅だ。
青年 ……七八丁行って、林道に出て、左へ曲って運送の……(と道筋を頭に入れながら)運送と言うと?
百姓 牛に引かせる荷車だよ。そいつの通る路ですよ。輪の跡がグッとへこんでるから、直きにわかる。
青年 (うなずいて)それを行って、県道に出る。右へ取って――わかりました。ありがとう。一時間か……(腕時計を見て)たしか十五時の上りが有りましたねえ?
百姓 十五時と――?
青年 ……三時何分かの小淵沢行き――?

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