、まあ……すみませんでした。チョット道を聞こうと思って――。(胸のポケットから折畳んだ地図を出す)
百姓 はい。……(りちぎに相手の言葉を待っている)
青年 小海線と言うんですか……此の地図にゃ載ってないんで……野辺山という駅まで、まだよっぽどありますか?
百姓 野辺山なら、もう、へえ、訳あ無え。此処から一里に少し欠ける――ユックリ行っても、さようさ、あんたらの足なら、一時間というとこだらず。
青年 そうですか。で、道はやっぱり、これを行きゃあ――?
百姓 うむ、どっちへ行っても行ける。この辺の道なんぞ、有るような無いようなもんで、下手をすると甲州へ出やすよ。
青年 そうか、そいつはどうも――。なんしろ昨日から人っ子一人逢わないもんですからね、道を聞こうにも――どっちの方角ですか?
百姓 ……お前さま、全体どっちからおいでなすった?
青年 こっちから来たんですけど――(自分の歩いて来た小径の方を指す)
百姓 んだから、どっから来なすった――?
青年 はあ東京……横須賀から、東京へ寄って、そして――。
百姓 んだからさ、どこを歩いて――?
青年 (相手の言う意味がやっと掴めて)はあ、自分
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