っと」]――?
百姓 わい!(ビクッとして一二歩飛び退るようにする。無心に歩いている子供が不意に物蔭から飛び出して来たものにおどかされるのと同じで、仕事に没入しきって何物も見も聞きもしなかったのを急に呼び醒されて驚いたのである。眼をパシパシさせて青年を見る)ほっ!
青年 ……(相手の驚きようがあまりひどいので、却って此方がビックリして)あのう……チット[#「チット」は底本では「チッっト」]、伺いますが……。
百姓 へえ……あんだあ。(おかしくなって)ハッハッハハ。フッ!
青年 ……どう――?
百姓 ハハ、出しぬけだもんで、へえ――(クスクス笑いながら仕事場の方へ行き、麦束を置く)
青年 (これも笑いながら、それについて五六歩行く)……麦ですか。おそいんですねえ、此の辺は。
百姓 うん?……(まだクスクスやりながら、腰の手拭を取って襟もとの汗を拭きながら、曲った足腰をウネの間に突っぱるようにして立ち、青年の頭から足の先まで見上げ見下している)うむ。……赤獄の天狗さんかと思うたよ。じょうぶ[#「じょうぶ」は底本では「じようぶ」]、びっくらした。ハハ。……学生さんでやすかい?
青年 ? いえ
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