守の間は、そのおかみさんが、火をみてるもんだ。……そで無きゃ火の神さまあ、家のむね離れてしまうて、よそに居る亭主は、つっころげた[#「つっころげた」は底本では「つつころげた」]まま、それっきりになってしまわあ。……そこの家のおかみさんと言うものはそれがつとめだらず。……たとえ、どんな辛え事があっても、へえ、火じろの所から動いちゃならねえづら。
女 うん……(はじめは、めんくらっていたが、百姓が、その廻りくどい言い方で以て何事を話そうとしているかがおぼろげながら解って来て、うなだれて聞いている)
百姓 そうだらず? な、シゲ。……その、二三日前に来た弟にしても、先方のおふくろさんにしても、身勝手と言や身勝手だ。……よっぽどの衆らしいや。……おっかあが[#「おっかあが」は底本では「おつかあが」]、どうでもお前をやらねえと言うのも、もっともだ。……だども、考えて見ろ、人間、誰一人身勝手で無え者があるかや? おっかあにしてもそうだ、お前にしてもそうだ、俺にしても身勝手よ。誰にしても、ウヌの尻がかゆい時に、人の尻を掻きやしねえ。ウヌの尻がかゆいのは、かゆい訳が有ってかゆいだ。どうにもなるもんでね
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