目の昼過ぎ五兵衛さん半死半生で戻って来ての話にな、熊に出会って、鉄砲玉あ奴の身体にぶち込んだにやぶち込んだなれど、死んだとも何ともハッキリ見とどけねえ中に、此方も崖からすべり落ちて頭あ打って、気い失ってる間に夜になっていた。気が附いて沢伝いに歩き出したが、とうとう道に迷っちまったそうだ。いくら歩いても里へ出ねえ。腹あ空くし、疵は痛む。その中に凍えて眠くなっちまって雪ん中でぶっ倒れてチョット寝ていちゃ、こうしていてはいけねえと気い取直しちゃ少し歩き、又あ眠くなって、ぶっ倒れる。又、歩く、……へえ、じょうぶ苦労して、やっと戻って来たそうなが、その眠くなっちゃ雪ん中さつっころげてウトウトしかけると、きまって、おデコの辺がムシムシしてな、家の火じろで火が燃えてるのがチラチラ見えたそうな。そんで、こうしていちゃいけねえと思っちゃ、引っぺがすようにして歩き出したそうだ。……あん時が危なかったと言って、後になって五兵衛さん身ぶるいしていたそうな。俺が小せい時に聞いた話よ。ふむ……そ言ったもんで、どこの家でも、火じろにゃ、火の神さまが住んでござらっしゃらあ、亭主が居る時は、亭主が火を燃す。……亭主が留
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