え。言わば、そう言うめぐり合せが来てそうなるだから、良いの悪いの言い立てて見たって、どうならず。へえ、そんな事あ、なるように打っちゃっといて[#「打っちゃっといて」は底本では「打っちゃつといて」]、自分は自分のするだけの事あするだ。……言わば、こらえてやるだ。……全体、女のする事あ、こらえてやる事だけだ。こらえる事の出来るのあ、女だけだ。……男にゃそったら事あ出来はしねえ。……女がこらえてやらねえじゃ、誰がこらえてやるかや?
女 へえ……。(しみじみと聞いている。青年は百姓の言葉の中から、彼女が言おうとしている事を掴もうとして、百姓の顔を見守っている)
百姓 ハハハ、俺が栃沢の家へ嫁に来てからの十四五年の間なんと言うものの辛さなんちうものを見せたら、お前なぞ眼え廻すべし。おふくろさまもおやじさまも、むずかしいの[#「むずかしいの」は底本では「むづかしいの」]なんのと言って。それに小じうとが五人から有らあ。……へえ、丁度道雄が生れる頃までと言うもの、俺あ、へえ、三百六十五日、帯い解いて寝た事なぞ、めったに無かった。……その道雄にしてからが――(言いさして、道雄と言う名が出て、何かをフッと
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