らかんべえと思いやす。(涙)……道雄さんから一番しめいに来たハガキを、おばさん、肌身に附けて、いつでも持っていやす。……いとしげに……。そんでいて、あんな風で、おかしなことばかり言ってる。人の事じゃ直きに泣き出す人が、自分の事では泣いてる暇も無えのづら。……腹ん中あ思うと、わしらが、へえ、いろんな事言って来られるわけのもんじゃ無えんだけど……へえ、つい、来るのでやすよ。……なんの事も無え時にゃ、おばさんの事なぞ、みんな、まるっきり思い出しもしねえ……苦しい目に会うと、急におばさんが恋しくなって逢いに来るだ……へえ、自分勝手なもんでやすよ。わしら――(涙を拭きながら、笑う)
青年 ……いや、私も、はじめ何でも無い唯のお婆さんだと思って……段々聞いていると、まるで、どうも……。はじめポッチリ雲が出て、なんでもない雲だと思っている間に気が附くとそいつが空一杯の入道雲になっている――船に乗っていると、そんな事があります。それと同じような気がします。びっくりしました。
女 ……(相手の言葉がよくは解らぬ)……そうでやすかね。
青年 しかも、自分では自分の大きさを知らずにいる。なんと言ったらよいか
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