ら又、岩村田へ戻って、あすこのおっかさんや道代さんと一緒に暮さなきゃならんと思うと、身をきられるような気がする。……死んだ方がましだと思うことが三日にあげず有るだから。……そりゃ、おばさん、ホントに辛いで。……だもんだから、え、どうしてええか、わからねえ。(泣き出す)
百姓 ……そうかえ。……その気性じゃ、先ず[#「先ず」は底本では「先づ」]、そうだらず。……とんだ、お前も苦労をするもんだ。ふむ……(千歯の歯を片手で掴み片手の指で、涙を頬にこすりつけていたが、それでは間に合わなくなって、姉さまかぶりしている手拭を取って、顔中をゴシゴシ拭く)……そうさ……(途方にくれたように若い女を見たり、その辺を見廻している中にひどく悲しそうな心細い顔付きになり、ヒョタヒョタと二三歩その辺を歩き廻り、ウロウロとその辺を見まわしていた眼が、千歯の傍に積んであった麦束が残り少なになっていたのを認め、麦畑の方へ目を移していたと思うと、やがて、後帯にはさんでいた鎌を抜き持って、麦畑の方へヒョコリヒョコリと行ってしまう。麦を刈る気になったらしい。忽ち、麦の穂波の向うに見えなくなり、そちらからの鎌の音がザクリザク
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