も農学校途中まであがった仁でやすがね(と青年に)へたに学校なんぞにあがると、こんで、地百姓なんぞになりたがらねえもんだが、あの仁だけは、へえ、いつの間にか良え百姓になりやした。……なかなか出来るこんで無え。ふむ……(首を振り振り、麦こき)へえ、まだ湯はわかねえかや?
女 うん、もうチョット……(しきりとヤカンの下に小枝をくべる)
青年 やあ、水でもいいのに。
百姓 うんにゃ、此の辺の水は山水だからなし、馴れねえ衆が飲むと、腹あ下す。……(片手で眼の上にひさしをして空を迎ぎ)ええと、もう一刈り刈って、それを落して、叩いてしまえば、先ず[#「先ず」は底本では「先づ」]今日はおしめえかな(又、ニッコリとこきはじめながら)シゲ、お前は、なんだ?
女 ……おばさんにチョックラ逢いたくなって――
百姓 なんの話だ? 言え。
女 うん……(青年をはばかって言いよどんでいる)……
百姓 戦地から手紙あ、来るだか? 元気でやっているかえ、源太郎?
女 へえ、こないだ手紙来やした。……元気だって。……
百姓 そうか。
女 ……甲州の慎太郎兄さんとこ、慎市ちゃん、試験、どうしやした?
百姓 さあなあ。なんせ
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