ことでも、そのほか此処らの村で目ぼしい事は、ばさまが大概先頭だ。ほかの者あ、大概理屈を言ってから、その理屈がのみ込めてから、はじまる。ばさまは理屈言わねえ。やらなきゃならん事は、やるべし。そんだけだ。ほかの者が理屈言ってる間に、ばさま手を出しちゃってる。米麦増産だあとなったら、黙あって、あくる日から自分だけ、今迄、朝五時に畑さ出ていた[#「出ていた」は底本では「出てい 」]奴を四時に出はじめたのもばさまだ。
青年 四時にですか?
中年 此処だって……此処は村の草刈場でね、共有の入会地だ。おとどしだったか、一人でコリコリやってると思ってたら、見る内に麦い蒔いちゃってる。じょうぶ[#「じょうぶ」は底本では「じようぶ」]、手が早えと言っても!
青年 (麦畑を見まわして)これを一人でねえ……。
中年 ハハハ……(立ちあがって、黙って麦束を掴んで千歯に寄る。一言も言わなくても、代って麦こきをする気であることが解り、若い女は麦こきの手を止めて、わきに寄って、立って見る。その交代する様子が、馴れていると見えて、自然である)……(ブリブリとこきながら)へえ、近頃じゃ、村会のお旦那の言うことなど、どうか
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