すか?
中年 それが、へえ、駄目だ。こんな時勢で、出るだけの人間は一人残らず出て行った後だからね。板橋部落三十軒ばかり、どこの家でも浮いている人手なんぞ、それこそ半ぎれだって有りゃしねえ。精一杯のカチカチの所まで働いているんで、この上、小作などを引受ける家は無え。……そんでまあ、こうして来やした。(まわりくどい言い方でやっと此処まで言って、相手にそれが解ったかどうかにおかまい無く、自分だけは説明し尽し得たりとして、ホッとして、煙草に火をつける)ハハハ、なあシゲちゃん。
女 ……(微笑しつつ麦こき)
青年 ……だけど、そんな、誰にもどうにも出来ない事を、あのお婆さんに。
中年 谷の方さ行ったなあ。それだ、ハハ、田の水う引っかきまわしながら、考えるづら。何事によらず、相談事もちかけられると、先ず[#「先ず」は底本では「先づ」]仕事をしる。仕事しながら、黙あって考えてら、おかしなばさまだよ。
青年 ……(考えている。相手の何もかも任せきった調子に対し、おりきのために、軽い反感を感じながら)しかし、そいつは――
中年 それだけじゃねえ。手の足りねえ出征家族に加勢する仕事でも、炭を山から運び出す
前へ
次へ
全78ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング