いううちの事で――
中年 それだ! 喜十というマットウ仁でやすがね、甲府に縁付いた妹の家が貧乏で子供が多くてね、おまけにその妹が病身でなあ、これまでもズッとこっちから仕送りをして来やしたが、喜十の方だって、カツカツやっている位のこんで、近頃じゃ、とてもやってけねえと言うんで、仕方が無えから、甲府の家に一緒になっちまって、自分は工場へでも、どこへでもつとめて稼ぐ――そう言うわけだ。そんでまあ、小作田を旦那の方へ返すと言うだがね。旦那の方じゃ、ただ返されても困る。代りに誰か借りてくれないようなら、仕方無えから、銀行の手に移すと言う。銀行の手に移れば、後はどうなるだか……まさかおっぽり放しにもしめえが、なんせ、唯でせえ、めった人も来ねえようなこんな山又山の中のタンボだからな、当分手が届かねえのは知れたこっでね。せっかくウンウン言って田普請をしてから、二十年から人手に可愛がられて来た三段歩近くの立派な水田が、荒れることは定だ。第一、米や麦を一升でも二升でもよけいに作らなきゃならねえという今日が日に、そんな事になっちゃ事だからね。そんでまあ――
青年 誰かほかの人が借りて作るわけには行かないんで
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