の手間代も出ねえと言う具合じゃ、一時はまあ何とかやっていても、永続きはしねえ訳でね。そこんとこ、何とかうまい具合にして貰えんもんかと思いやす。……こんな事言うと、又、ばさまに叱られるがね、ハハハ。(百姓の去った方を見る)
青年 ……(相手の言葉をうなずきながら聞いていたが)すると今のおばあさんは、その……どう言うんです? 何と言う――?
中年 ばさまの名前かね?……ハハハ、そいつは、村の者でも、ばさまばさまだ。なあシゲちゃん、お前、ばさまの名前知っているか?
女 ……(麦こきの手をチョット休めて、微笑)栃沢リキづら?
中年 ほう、知ってるか。(青年に)この人は、ばさまの姪っ子で[#「姪っ子で」は底本では「姪つ子で」]やしてね。俺も実は遠縁になっていやす……うむ、此処の村じゃ――板橋と言うて、村々と言ってはいるが、ホントは大字でね、小さな部落だ――大概縁つづきの家が多くて、栃沢と言う苗字の家だけでも十二三軒有る。そんでいて、りき、……栃沢りき……おりきさんだなあ、ハハハ――ばさまの名を知っている者あ、珍らしい位のもんだ。それもそうだらず。へえ、芋んこみてえな、よごれたばさまが畑へえずり廻
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