と歩み去る)
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(短い間……谷の方へ降りて行きながら歌い出している百姓の歌の声)
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青年 (貰ったおヤキを食べにかかりながら)……そんなに農作のことにくわしいんですかね、あのおばあさん?
中年 くわしいにも、なんにも、――わしら、これで農産の指導員みてえな事していますがね、年中叱られ通しだあ、ハハハ……こんで此処らあこんな山ん中だで、タンボでも畑でも、平坦地方とは加減がまるきり違いやすからね、そこで、なんせ、五十年からの功を積んでる仁だもの、喧嘩にゃならねえ。
青年 だけど、気の軽い、面白いおばあさんですね。(思い出して微笑)はじめ、お爺さんだとばかり思っていて――。
中年 そうですかい。いやあ、気が軽いだか重いだか――へえ、唄あ唄ってら。(百姓の唄声が風に乗って流れて来る。しばらくして、崖でも降りたのか、フッと消える。若い女は千歯の所に行って麦をこきはじめる)
青年 あれは何の歌です? この辺の昔からの?――
中年 なに、ズッとせんに、流れもんの炭焼きから習ったとか言うこったが、ほんとだか嘘だかな。お天気が良かったり、仕事の運びがうまく行
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