ハハハハ、阿呆だ、俺は!(立って)よしよし、へえチョックラ汲んで来やす。(青年からヤカンを取る)
青年 いや、自分が行きますから。(上手を指して)この下でしょう?
百姓 下は下でも、ここいらの沢あ深いで、五六丁も谷をおりる。第一、路なんぞ無えから、お前さまにゃ無理だ。
青年 でも、それじゃ――
女 (既に歩き出している百姓の後を追うようにして)おばさん、水汲みなら、わしが行って来やすから。
百姓 なにさ、俺あ、ついでに川っぷちのタンボの水加減見て来なきゃなんねから……お前はそこで休んでいな。
女 水、おとすんかい? 水おとす位の事なら、わしにだって出来るから。
百姓 おとすんじゃ無え、水口の温度見て来るだ。今日ら、少し煮えてるずら、今丁度稲あホキてる最中だからな、下手あするとしくじらあ、……(立停って)それとも、シゲにタンボの水加減、わかるか?(からかうようにニヤニヤして女を見る。女はモジモジしている)
中年 やあ、そいつはおシゲさん、やめにしときな。此処らの稲作のことで、そのばさまにかなう者は居るもんじゃ無え。(笑う)
百姓 ハッハハ。(笑いながら、上手のカシバミの叢を分けてサッサ
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