けねえものは、やってけねえ……甲府の娘の内も見てやんねえばならねえし、暮しが二手に分れていて物入りもかかる。このまま行けば両方とも首くくりもんだ。んだから甲府へ出て家を一つにして俺あ職工になる。行くなと言われる皆の衆の話はわかるけれど、そんじゃ、俺達の一家で首くくれと言うのか。……どうでも俺あ行く。行くのが悪ければ、仕方が無えから、俺とこ、好きなようにしてくれ。……こうだ。まるでもう、血相変えていやす。喜十の身になって見りゃ無理も無え。無理も無えことが、ようくわかっているから、俺たちにも、これ以上……。
百姓 ふむ……んでも、先ず、秋になって取入れをすます迄は、これで、だいぶ間もあるから、野郎にようく考え直さして――
中年 それが、へえ、喜十の口ぶりでは、秋になっての話がうまく運ばねえような見込みだと、青田のまんま、今直ぐにでも売っ払って、年貢は金にして払ってでも、国越えをする気らしいで……へえ。
百姓 ……そいつば思い切ったもんだ。……(草の上にアグラを組んだ足の、わらじを穿いた足の先きで、夜なべ仕事の癖ででもあるか、その辺の草の葉でワラジを[#「ワラジを」は底本では「ワラヂを」]編
前へ 次へ
全78ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング