…二人は老農婦が此処で働いている事をよく知っていてやって来たもののようで、直ぐに百姓と青年の姿を認めて、スタスタ寄って来る。殆んど足音を立てないので縫物に集中している青年も、それを穴のあくほど見守っている百姓も、気が附かぬ。中年男と若い女は二人から三四間の所に立停って、黙って突立ったまま、同じように青年の手元を覗き込む……)
[#ここで字下げ終わり]
青年 ……これでよしと。(縫い終ってケースから小さい鋏を出して糸を切る。中年男と若い女にも此の場の様子がわかって来る)
百姓 へえ! なんたらチャッケエ鋏だあ!(讃嘆の叫び声)
青年 ハハ、これで、案外よく切れるんですよ。(鋏を百姓の手に渡して見せる)
百姓 (それを、大きい掌の上で打返し打返して見ながら)へえ、まあ! かわゆらしい! こんでなあ、切れるかや?(それまで珍らしくも無いと言った様子で眺めていた中年男が、肩をすくめる)
青年 (ケースを示して)これが指ぬきです。これが糸、これが針差し、先の曲った針もあります。そいから――
百姓 一式そろっていやすね! ふーむう(惚れ惚れとして見入っている。中年男はニヤニヤしている。若い女はきま
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