じめな顔をして立っている)
青年 ……(たかが裁縫道具に百姓の讃嘆があまり子供らしく度はずれに激しいので、微笑しながら道具をしまいかけそうにするが、相手が殆んど撫でさすらんばかりにしているので取上げるわけにも行かず、そのままにして、包みを開いて握り飯を食いはじめようとして、何の気もなくそっちへやった眼が、中年男と若い女を見つける)
百姓 (そんな事には一切気付かず)第一、この箱がキレイだ。なんと、まあ――
青年 ……(二人を見ている)
百姓 東京には、こんなもん売っていやすかえ?
青年 いや……なんでも、かなり昔のもんです。(黙って立っている二人を気にしながら、飯を噛みはじめる。様子が百姓の所に来た人達らしいので二人と百姓を見くらべて)あのう……。
百姓 そうだらず。へえ、いまどきの物とは違うようだ。うむ!(一人うなずいてケースを老眼にくっつけて見たり離して見たりする)
中年 ワッハハハハ、ハハハ!(こらえ切れなくなって、くわえていた煙管を片手に取り、鼻の穴を空へ向け、腹をゆすって笑い出している)ワッハハハハ!
百姓 う?……(働いている時に声をかけられてあれ程びっくりした人が、今度は
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