いるもんだから、つい、どうも……。
百姓 おふくろさんは富士見にござらすかえ? そうかえ。おふくろさんに逢いに戻って来やしただね?
青年 はあ、……いえ。――
百姓 すると、お前さまのおふくろさんは富士見の人かえ? そうかえ、富士見にゃおらの知ってる人も居る。森田の宇えさんと言って、じょうぶ鼻のでっけえ――
青年 いえ、村の人間じゃ無いんです。久しく富士見の病院に入っていたんで。……中学時代に僕あ、チョイチョイ、見舞いに来て……その病院の窓から、おっ母さんが此方を指して話してくれたんで――
百姓 ……すると、病気かえ? そいつは、いけねえ。そんで、ちったあ、良い方かね?
青年 なんです?
百姓 おふくろさんよ、その。
青年 (びっくりして、それから微笑)ああ、母は、死んだんです。……ズッとせん、富士見で。
百姓 ……(フッと麦こきの手を停めて、青年の方を見る)……そうかえ。
青年 (少しテレて、微笑している)なに……ですから、なんとなく……そこいらを歩き廻って見たくなったもんだから……
百姓 ふむ……(両手を、曲った腰に当て、シミジミと青年を眺めている)……いくつの時だあ?
青年 ……
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