だ。
青年 (微笑)……ガダルカナルですか?
百姓 そうそう、そったらカナルだ。行ったことがありやすかね、そこへ、お前さまあ?
青年 いや、まだ行きませんが……どうしてです?
百姓 ううん、いや……(何か考えているらしいが、麦こきの手は休めない)……(気を変えて)船の人が、だども、山へ登ると言うなあ――? 今どきあ、忙しからずに?
青年 三四日、休暇が出たもんですからね……急に此方へ来たくなって――だけど、馴れないもんだから、山路の遠いのにゃ、驚ろきました。直ぐ其処に見えてる山を越えるのに、とんでもない所をグルグル廻る……。
百姓 山登りは、はじめてかね?
青年 いえ、もともと山は好きなんで、以前少しは登ったんですが、八ヶ嶽は、はじめてです。……富士見に降りて、あの辺を歩いて見ようと思って……少し歩いていたら、急に此方へ越えて見たくなりましてね……。
百姓 ふむ、富士見からね? そいつは御苦労さまだ。
青年 なに、おっ母さんの室の窓から、年がら年中、見えるものと言えば此の山です。あれを越して行けば、川上、野辺山……それを抜けてズンズン行けば秩父へ出られる……何度も、そんな風に聞かされて
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